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​internship program

一般社団法人PROJECTAのインターンシップ・プログラムでは 北海道内のアーティストにインタビューをお願いし、 インターン生にインタビュー・文字起こし・編集までを行ってもらいました。 今回、インタビューを行ったインターン生は、 北海道教育大学岩見沢校 芸術・スポーツ文化学科 芸術・スポーツビジネス専攻3年生の千代都葵さん。 自身も音楽や絵を描いたりとアートやアーティストに興味津々。 インタビューのお相手は、国内外で活躍しているアーティストの川上りえさん。 過去、現在、そしてこれからの川上りえさんのお話をお聞きします。 

​川上りえさんのアトリエにお邪魔させていただきました。

ーー現在の表現スタイルはどうやって決めましたか?(彫刻やインスタレーションなど)

絵を描きたいという想いから始まって美術大学を目指している頃から銀座のギャラリーなどで展覧会を見始めるようになって、立体彫刻やインスタレーションの世界に感化されたことが、きっかけになったと思います。作品に感動して、その感動を自分の手によって生み出したい。誰でも美術をやりたいと思う最初の理由は、そのように漠然としたものなのではないでしょうか。表現したいことを突き詰めていく作業が美術の目的と言えるかもしれません。私の場合は、宇宙的スケール感を伴う生命観について、美術を通してその意味や感覚をどう表現できるか必死で探りつづけています。制作の主軸は彫刻やインスタレーションですが、表現手段(スタイル)を限定せず、コンセプトや展示空間に応じてドローイングや画像、映像による作品展開もします。現時点では、自分のことを「美術家(アーティスト)」と紹介するようにしています。

ーー普段からりえさんは頻繁に展示会をやってらっしゃっていますが、制作するにあたって作品のアイデアやイメージはどんなときに浮かんできますか?​

悩んでいるときです(笑)。悩む、という意識を維持することで、日常の生活で目にすること、聴くこと、感じることからピンとくるときがあります。少しでもピンときたらそれを作ってみる、描いてみる、画像にとってみる。それらはたいていイケていないアイデアのように思われますが、あとになって掘り返してみると良かったりすることもあります。アイデアが作品化するまでの道のりは長いです。

私は金属で作品を作ることが多いのですが、なぜ金属なのか、今まではうまく説明できなかった。最近は、素材に内在する力を私の作品の意味付けに繋げたいのだと実感するようになりました。それからはイメージの展開はスムーズになったように思います。

ーーそんな中で、作り上げてきた作品たちはりえさんにとってどんな存在ですか?

作品たちは「試み」の証であり、一つの結論なので、その結論でよかったのかどうかをずっと問いかけてくる存在です。うまくいったという満足度が高い場合と、一生懸命創った割にどうなんだろう、と思っていまう場合がある。何年か経って見てみると「あれ?いいじゃん(笑)」という風に思えたり、もう色褪せて見えちゃったりするときもある。しばらく心が離れていた若いときの作品から新鮮な感動を受ける場合も多々あります。変化したりする自分の価値観を確認する存在とも言えます。

ーー作品を発表していて、批判的な、反発的な意見とかっていうものはありますか?

 

廃材を使ってインスタレーションの発表をした時、自分は面白いインスタレーションが出来たと思ったのですけが、火事場のあとのように見えたのか、「こんな展覧会に招待するのは失礼だ」なんて言われた事はあります(笑)。また、「私鉄嫌い」とおっしゃりながら見ている人がいました。これは素材の感触との相性の問題なので、悪意はないことを理解していますが、新鮮な感想でした。

 

批判や反発も次に繋がる貴重な意見として、有り難く受け止めています。私にとっての一番の批判は、観覧者の方の作品に対する反応が全く無いときです。それは言葉ではなく態度から察知できる。批判されることには落ち込まないけれど、無関心には落ち込みます。

初めてのインタビューに緊張で顔がこわばっています(笑)。

ーーりえさんが学生時代に目指していたり、尊敬していたアーティストさんはいましたか?

美術大学を目指し始めた頃は、サルバドール・ダリが好きで、彼のような世界観の作品を創りたいと思いました。大学生以降は、若林勇、関根伸夫、戸谷茂雄の作品の雰囲気に圧倒され、とても惹かれました。あの頃から物質の力と空間の質をすごく意識するようになったと思います。

 

ーーアーティストになるために必要なことってなんだと思いますか?

 

…「勢い」ですね(笑)。「実行力」。悩んで立ち止まるのではなく、悩んで色々やってみる。そういうふうに自分を仕向けていく姿勢が大切で、苦しみや悲しみも原動力にしてしまうたくましさが必要です。

 

ーーりえさんの長い芸術家としての人生として、挫折とかっていうのはありましたか?

 

毎日プチ挫折しています(笑)。深刻に、社会的に成功していない自分に対して、もうだめだという心境になることも多いですが、美術家をすることが名声を得ることではなく、物事の本質にたいする問いかけと発見を体験するという素晴らしい生き方なのだという想いに立ち戻り、ハッピーな気持ちになって復活しています。

川上りえさんのアトリエの2階

ーー「この子アーティストになりそうだなぁ」っていうのもわかったりしますか?

作り続けていきそうだなっていう人は直感でわかります。少しの間見ていれば。もう目つきが違うから(笑)。そういう人からは、私の仕事ぶりをよく観察して(失敗も含めて)そこから学び取っている視線を感じます。でも、予想外な例もあります。あまり続かないだろうと思ってる子が案外じわじわと創り続けるようになっていく。喜ばしい誤算です(笑)。

ーー学生時代にやっておいた方が良いと思うことや、現在アーティストを目指す学生に対してアドバイスなどをお願いします。

​​

できるだけ、良い作品を見る。というか、それぞれの作品の良さを自分なりに考える機会を持つことですね。理解するための手立てとして、作品についての評論文を読むことは良いと思いますが、それにとらわれず自分の視点を持つことも大切です。美術史は結構勉強して良いと思いますね。私も勉強全然足りないからすごく反省していて。「そんな理屈をこねていないで、作品をどんどんつくれ」と言う意見もありますが、いろいろな側面から考え方を深めるのが良いと思います。海外も、行けることならできるだけ行って、本物を見る。すごい昔の作品でも、それが歴史的に今もちゃんと美術館で残されているってことはちゃんと理由があるので、それも含めてしっかり自分の中で解釈していく。

また、美術をすることは、価値観を反映することだから、美術作品に触れるだけではなく、自分と世界の関係における全てのことについて好奇心を持って向き合う姿勢を心がけたいですね。

制作作業は急げない。経験からしっかり学習して、仕事を要領よくすすめる工夫を常に考えることが大切です。そうすれば無駄な作業も無駄ではなくなります。それによって一見辛そうな肉体労働も楽しいものに変わっていきます。労働を楽しめる様になれば、こちらのものです。

人の作品から影響を受けて、それに酷似した作品を作ってしまうことがあります。作家になったら、真似となる行為はモラルとして避ける必要があるけれど、模倣という勉強の仕方もあるくらいですし勉強中はあまり気にせずやってみて良いと思います。創る行為を通して得られることが沢山あることでしょう。

テーブルの上に置かれたお皿もアトリエでつくられた作品

ーー普段学生からどういう質問などを受けますか?アーティストさんになりたい学生の悩みなどたくさんあると思うのですが…。

アンケートにある、「作品のアイデアやイメージはどんなときに浮かんできますか」に等しい質問や、「先生はどうやって(お金を稼いで)生きているのですか?」「展覧会の後、(売れない巨大な)作品はどうするのですか?」という単刀直入な質問が多いです。「展覧会場でさっきお話ししていた人は誰ですか?」とか(笑)人脈を意識した質問も受けます。作家としても社会人としても、人とのつながりは大事なことなので、出来るだけ紹介するようにしています。

ーー最後に、りえさんにとってアーティストとはなんですか?

自分が信じて求める物事への捉え方、感じ方、解釈のしかたについて問いかけつづけ、それを何らかの形で表現するのがアーティストだと思います。その表現は、平面、立体という物理的形でも、音や光、味覚、感覚に訴えるすべての手段によって可能です。

国内外でも精力的に活動している川上りえさん。その考え方には透き通った純粋なものから深く根強くまっすぐなものを感じました。また、その言葉や優しい語り方と声に、未来に向けての目線や周りに対する感じ方も無意識に考えさせられたような気がします。

川上りえさん、千代都葵さん、ありがとうございました!!!

■川上りえさんプロフィール

彫刻家。千葉県出身。1989年 東京藝術大学大学院修了後、個展、グループ展を通して金属彫刻、インスタレーション、インタラクティブ・ワーク、サイトスペシフィック・アート等の制作発 表を行なっている。2001年より石狩市、フリーマン基金、文化庁、の助成金を得て、ポーランド、アメリカや韓国での展覧会出品及びアーティスト・イン・ レジデンス・プログラムに参加。札幌を中心に道内外で作家活動を展開。平成24年札幌市文化奨励賞受賞。

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